M邸

祖父が残した家

4人家族のための既存壁式RC住宅の増改築。既存は今回の施主の祖父が設計し1968年に建設された。仕事で不在が多い祖父が家族の安全を思い頑丈なRC造で建て、三世代に渡って住み継がれてきた家。祖父の目論み見通り躯体は今尚健全な状態だった。当初は建て替えの相談だったが、既存躯体の状態の良さ、RC住宅解体の費用等から建て替えと増築の両方を提案し増築の計画へと進んだ。

外構-家と都市の緩衝地帯-

家と都市の間に存在する外構は、両者(家-都市)の緩衝地帯だ。施主は住まいに明るさと開放性を求めたが、周辺には工場やアパートが建ち、前面道路は幅員狭いが交通量は多く積極的にオープンにできない周辺環境で、既存の南側には木造小屋が増築され庭木も生い茂り、既存内を閉塞的にしていた。施主が求める空間と雑多な周辺環境のバランスのとれた外構(緩衝地帯)をつくるように増築を考えていった。

工作物スケールの集まりで増築をつくる

必要面積130㎡に対し既存は105㎡なので、既存内では更新が難しい水回り設備が入るDK棟(16㎡)と浴室棟(9㎡)の計25㎡を増築し、設備の軽いリビングと個室を既存内に配置した。増築棟は既存に対し非常に小さいため形式的になりすぎないよう工作物スケールの集まりで空間をつくるように考えていった。RC棟南面を、駐車場を外して間口いっぱいに木塀でぐるりと囲み、西側半分を庭、東側をDKとする。ダイニングは4本の壁柱で天井が高く持ち上げられた開放的な場所とし、キッチンのうえに住空間を包み込むようなL型の勾配屋根を架けた。勾配屋根と木塀は周辺環境から開く・閉じるべき方向を見定め、寸法を決定。既存バルコニーは一部解体し、その端部を既存と同断面のR形状でつくり、造形の独立性を強調した。また、既設のバルコニーと新設の木塀、勾配屋根、壁柱が同等の存在感になるように、それぞれのスケールと造形、仕上げを検討した。RC棟の南側をバルコニー、勾配屋根、木塀、壁柱で囲まれた親密な雰囲気がありながら、それぞれの隙間から大きく外が入り込んでくる開放的な場所でもある。RC棟南側のリビングや個室から外を見ると、外構に計画された部位の一部が断片的に見えて全体性を感じられる。堅牢な躯体で各部屋の繋がりが無く閉塞的だった家を柔らかく解きほぐし、光や家族の気配を奥まで導く明るい環境をつくるための、外構のような増築のあり方を目指した。